札幌地方裁判所 昭和29年(行)12号 判決 1958年5月12日
原告 浜本松枝 外一名
被告 国 外二名
主文
原告らと被告国との間において被告国が昭和二十五年三月十五日付買収令書により別紙目録記載の一、四の各土地(立木を含む。)についてした牧野買収処分は無効であることを確認する。
原告斉藤清之助と被告らとの間において別紙目録記載の一、四の各土地(立木を含む。)が原告斉藤清之助の所有であることを確認する。
被告国は原告斉藤清之助に対し、別紙目録記載の一、四の各土地につき札幌法務局平取出張所昭和二十八年二月六日受附第二七号、昭和二十四年七月二日自作農創設特別措置法第三十条の規定にもとづく買収による所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。
被告振内農業協同組合は原告斉藤清之助に対し、別紙目録記載の一、四の各土地につき札幌法務局平取出張所昭和二十八年二月六日受附第二九号、昭和二十四年七月二日自作農創設特別措置法第四十一条の規定にもとづく売渡による所有権取得登記手続の抹消登記手続をせよ。
原告らのその余の請求はこれを棄却し、予備的請求はこれを却下する。
訴訟費用はこれを十五分し、その三を原告らの、その十を被告国の、その各一を被告振内農業協同組合および被告坂口馨のそれぞれ負担とする。
事実
原告ら訴訟代理人は「原告らと被告国との間において被告国が昭和二十五年三月十五日付買収令書により別紙目録記載の各土地(立木を含む)についてした牧野買収処分は無効であることを確認する。被告国は原告斉藤清之助に対し別紙目録記載の一、二、四の各土地について札幌法務局平取出張所昭和二十八年二月六日受付第二七号、別紙目録記載の三の土地について同出張所同年十月二十日受附第六六八号各昭和二十四年七月二日付自作農創設特別措置法第三十条の規定にもとづく買収による所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。原告斉藤清之助と被告らとの間において別紙目録記載の各土地(立木を含む)が原告斉藤清之助の所有であることを確認する。被告振内農業協同組合は原告斉藤清之助に対し、別紙目録記載の土地につき札幌法務局平取出張所昭和二十八年二月六日受附第二九号(ただし、同目録三の土地につき同出張所昭和二十八年十月二十日受附第六六九号)昭和二十四年七月二日自作農創設特別措置法第四十一条の規定にもとづく売渡を原因とする各所有権取得登記の抹消登記手続をせよ。もし、右の無効確認の請求が理由がないときは、被告国が昭和二十五年三月十五日付買収令書により別紙目録記載の各土地(立木を含む)についてした牧野買収処分はこれを取消す。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。
一 平取村農地委員会(以下村農地委員会と称す)は、昭和二十四年六月十八日別紙目録記載の各土地(以下本件土地と称す)につき右各土地上の立木を含め原告浜本松枝をその所有者として自作農創設特別措置法(以下自創法と称す)第四十条の二第一項第一号の規定による牧野買収計画を樹立したので、原告浜本松枝は同年七月二日同農地委員会に異議の申立をしたが、同年八月十二日棄却され、ついで、同年九月十三日北海道農地委員会(以下道農地委員会と称す)に訴願を提起したところ、道農地委員会は昭和二十五年一月二十九日訴願棄却の裁決をした。ところが、村農地委員会は昭和二十五年二月頃右の買収計画には対価として立木代を計上していないとして、右買収計画を取消しあらためて立木代を含めた買収計画を樹立した。ついで、北海道知事は右の買収計画にもとづいて昭和二十五年三月二日を買収時期とする買収令書を昭和二十五年三月十五日付で作成発行し、これを同月末日頃原告浜本松枝に交付して本件土地(立木を含む。)を買収し、右の各土地につきそれぞれ請求の趣旨に掲記したとおりの買収による所有権取得登記をなした。しかして、被告国は右買収に先だつ昭和二十四年七月二日、すでに本件土地を立木とも自創法第四十一条により被告振内農業協同組合(以下振内農協と称す)に売渡し、同被告に対し、本件土地につきそれぞれ請求の趣旨に掲記したとおりの売渡による所有権取得登記手続をなし、被告振内農協は昭和二十八年九月本件土地上に生育する立木全部を被告坂口馨に売渡した。
二 しかしながら、被告国の本件土地に対する買収処分は次に述べるように重大かつ明白なかしがあるから無効である。
(一) 立木対価を含めた買収計画につき公告、縦覧、承認がない。
村農地委員会は既述のとおり当初定めた買収計画には対価に立木代を算入しなかつたのでこれを取消し、昭和二十五年二月頃あらためて立木代を含めて買収計画を樹立したが、これについて公告、縦覧および道農地委員会の承認の手続をとらなかつた。しかして、以上の各手続は自創法上定められた法定の手続として買収処分の有効要件であるから、買収計画の樹立についてはもちろん、買収計画の内容の一部を変更した場合にも絶対に履践されなければならないものである。よつて、これらの手続の履践を欠く本件買収計画およびそれにもとずく本件買収処分は違法である。
(二) 本件買収処分は事実の所有者でない者に対してなされた。
自創法による買収処分はその買収計画樹立当時の現況にもとづき真実の所有者に対しなすべきところ、本件土地は昭和二十三年二月二十二日原告斉藤清之助が訴外八田忠虎から買受けたものであつて、右の資金の融通を実姉である原告浜本松枝から受ける関係から登記簿上は同人の所有名義にしたものであり、村農地委員会は本件買収計画を樹立した当時は原告斉藤清之助が本件土地の真実の所有者として、林木育成の目的でこれを管理していたことを熟知しながらこれを無視し、たんに登記簿上の名義人に過ぎない原告浜本松枝を相手として買収計画を樹立し、被告国はこれにもとづいて本件買収処分をなした。よつて本件買収処分は所有権者の認定を誤つた違法のものである。
(三) 本件土地は山林である。かりに牧野であつても小作牧野ではない。
本件買収計画樹立当時の本件土地の登記簿上の表示は牧野であるが、現況は山林である。すなわち、本件土地は全地域にわたつて、ハン、カツラ、アサダ等目通四寸以上一尺二、三寸、樹令十七年ないし二十一年の樹木が一町歩当り平均七百五十四石余の割合で密生しており、樹冠の疏密度も〇・三以上を有し、かつ原告斉藤清之助は本件土地を取得した。
昭和二十三年三月二十二日以来、伐採の目的で立木のつる切、除伐等の管理行為をしていたものである。また、同原告はこれまで本件土地を家畜の放牧または採草のため第三者に小作させたことはない。よつて本件土地の現況および使用目的は山林であり、かりに牧野であるとしても小作牧野ではないから、これを小作牧野として買収した本件買収処分は違法である。
(四) 本件買収および売渡計画の議決に利害関係のある農地委員が関与している。
村農地委員会は本件土地の買収および売渡計画の議決に、売渡の相手方である被告振内農協の組合員訴外吉田留次郎、同奥村助市、同斉藤猛らを農地委員として関与させているが、本件のように買収計画と売渡計画とが同時に議決される場合には、売渡および買収計画ともども売渡しの相手方である被告振内農協に関する事件というべきであり、ひいてはその組合員である同訴外人ら農地委員に関する事件と称すべきである。よつて、これら農地委員にとつて本件買収および売渡計画は自己に関する事件としてその議決に関与することは農地調整法(以下農調法と称す)第十五条の二十四の規定から許されないものといわなければならないから、右の規定に反する本件買収および売渡計画の議決は違法である。
三 かりに以上諸種のかしが無効理由とならないとしても右の(一)ないし(三)の事由は本件買収処分の取消事由となるからその取消を求める。
四 以上述べたように買収処分が無効であれば、その売渡処分も無効といわなければならない。かりにしからずとしても、被告国は冒頭で述べたように本件土地(立木を含む)の買収以前にこれを被告振内農協に売渡し、また二ノ(四)で述べたように売渡計画の議決に利害関係人を関与させているから、その売渡処分は無効である。したがつて、本件土地(立木を含む)につき被告振内農協が、右の立木につき被告坂口馨がそれぞれ所有権を取得する理由はなく、原告斉藤清之助がなお所有権者というべきであり、また、本件土地についての被告国の買収による所有権取得および被告振内農協の売渡による所有権取得の各登記はいずれもその原因を欠く無効のものだから当然抹消されなければならない。
五 よつて、原告らは被告国に対し本件買収処分の無効確認および予備的にその取消を、原告斉藤清之助は被告らに対し本件土地(立木を含む)に対する同原告の所有権確認を、ならびに右の所有権にもとづいて、被告国および被告振内農協に対し、本件土地につきなされた各所有権取得登記の抹消登記手続を求める。
つぎに被告国の主張に対し、次のとおり答えた。
被告国の二の主張中買収計画変更の通知があつたことは否認する、かりに右の通知があつたとしても、買収計画の公告、縦覧の手続を欠いたかしは治癒されない、同四の6の事実および同五の主張中村農地委員会が全員一致で議決したとの点は否認する、同六の主張に対し買収期日は買収令書に記載すべき要件であるから、これが訂正された場合は、買収処分に対する出訴期間は右訂正のあつたことを知つた日から進行する。ところで原告らが本件土地の買収時期が訂正されたことを知つたのは原告斉藤清之助に訂正通知書が交付された昭和二十九年六月十一日以後であり、しかも原告らは右の日時から一ケ月内の同月二十五日に本訴を提起したのであるから適法な訴というべきである。
(立証省略)
被告国指定代理人、被告振内農協代表者および被告坂口馨は主たる請求および予備的請求に対し「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁として次のとおり述べた。
被告国の答弁
一 原告ら主張の一の事実について、村農地委員会が原告ら主張のように本件土地(立木を含む)の買収計画を樹立しこれに対し、原告浜本松枝がその主張のように不服の申立をしたが、いずれもその主張の日時に棄却されたこと、北海道知事が昭和二十五年三月二日を買収時期と記載された買収令書を昭和二十五年三月十五日付で作成発行し、原告浜本松枝に交付して本件土地(立木を含む)を買収したこと、および被告国が昭和二十四年七月二日本件土地を立木とも被告振内農協に売渡し、その主張のような各登記手続をしたことはいずれも認めるが本件土地の買収時期が昭和二十五年三月二日であること、本件土地を買収期日前に被告振内農協に売渡したとの点はいずれも争う、同被告が本件土地上の立木を被告坂口馨に議渡したとの点は知らない。本件土地の買収時期は昭和二十四年七月二日であつて、買収令書記載の買収時期は右の誤記である。なお、右の誤記については昭和二十九年五月三十一日付をもつて北海道知事より原告浜本松枝に対し訂正を通知し、同年六月十一日原告斉藤清之助において代理人としてこれを受領している。
二 同二の(一)についてはすべて争う。立木対価を含めた買収計画は、あらたな買収計画として樹立されたものでなく、昭和二十四年六月十八日村農地委員会が樹立した買収計画の対価を、さらに一石当り十一円の立木代を加えた総額金九万八千三百五十円三十銭に増額変更したに過ぎない。しかして、右の変更計画については、昭和二十五年二月二十一日村農地委員会の議決を経て同委員会は直ちにこれを公告、縦覧に供し、かつ、同月二十三日道農地委員会に承認申請の手続をとり、同年三月一日道農地委員会において承認されている。かりに公告、縦覧の手続を欠いたとしても自創法が買収計画につき公告、縦覧を必要としている規定の趣旨は利害関係人に、買収計画の内容を知らせて異議申立による行政上の救済の機会を与えるためであるから、利害関係人においてなんらかの方法で内容を知り、異議申立の機会を与えられた場合は、そのかしは治癒されたものと解すべきである。しかして、原告浜本松枝は昭和二十五年三月四日付をもつて、村農地委員会から変更計画書を添付して買収計画が変更された旨の通知を受けているのであるから、当然その内容を知り、かつ異議申立の機会を与えられていた。かりにしからずとしても、同原告は変更前の買収計画については対価につきなんら不服を申立てなかつたのであるから、対価以外において実体上なんら異るところがなく、しかも同原告の利益に増額変更した変更計画に不服があるとは思われない。したがつて、変更前の買収計画につき異議申立の機会を賦与している以上、これと実体上異るところがなく、かつそれ以上の不利益を受けることのない変更計画については、たとい公告、縦覧の手続を欠いたとしても買収計画ひいては買収処分が無効となるものではない。
三 同二ノ(三)について、本件土地の登記簿上の所有者が原告浜本松枝であることはこれを認めるが、真実の所有者が原告斉藤清之助であるとの点はこれを否認する。原告斉藤清之助は所有者として、本件買収計画に対し異議の申立をせず、かえつて原告浜本松枝がその所有者であり、かつ、原告斉藤清之助をして本件土地で造材、製炭を施業させるべく計画中であるとして不服申立に及んでいる。それのみならず原告斉藤清之助が所有者として本件土地を林木育成の用に供し、天然立木の手入、看視等の管理行為をした事実はない。以上要するに本件土地の真実の所有者は原告浜本松枝というべきであるから、同原告に対してなした本件買収処分にはなんらのかしもない。
四 同二ノ(三)について、本件土地の地目が牧野であることおよびその地上に樹木が生育していることは認めるがその余の事実は争う。本件土地は次の諸点からみて、まさに小作牧野である。
1 本件土地の沿革
本件土地は北海道未開地処分法(明治四十一年法律第五七号)により大正十二年三月三十一日訴外三上重蔵、同伊藤米蔵の両名が国から牧野造成の目的で、その成功期間を十年として売渡を受け、十年後に目的達成の認定を受けた土地であつて、爾来数度にわたつて所有権は移転されたが、その使用目的は変ることなく牧野として平取村村民の所有馬匹が周年放牧されて現在に至つた。
2 樹冠の疏密度
買収計画樹立当時における本件土地の樹冠の疏密度は五百四十五番地の土地だけが〇・三程度で、その他三筆の土地はいずれも〇・二以下のものであり、その樹種はヤナギ、ハンノキ、シラカバ、アカダモ等の主として用材価値の少い幼灌木がその大部分を占め、また、馬匹の飼料として極めて栄養価の高いミヤコザサが全般にわたつて叢生し、とくに五百四十五番地の土地には密生している。一般にミヤコザサの殖生には本件土地のような混牧林にあつては樹冠の疏密度が〇・七程度が適当であつて、むしろ前記の程度の疏密度では充分でない。
3 地形
五百四十五番地の土地は南北に傾斜しているので冬季間馬匹がミヤコザサを堀雪採食するに好適の自然条件を具備し、したがつて秋季および冬季の放牧地として適し、その余の土地はおおむね平担であり、、殖生もミヤコザサ以外のものが多いので、主として夏季の放牧に適している。
4 放牧量および放牧日数
本件土地は前述のように地形および飼料の関係から各地番の放牧時期を異にしているので四季を通じて放牧が実施されているが、その放牧日数は年間二百四十日以上であつて、放牧頭数は夏期において三百頭を越え、十二月から翌年四月までのいわゆる冬季放牧期間は六十頭程度である。
5 隣接地
本件土地は北側は村有牧野に、東側はすでに買収処分のあつた同所四百六十五番地および四百六十九番地の土地に、南西はソウシベツ川にそれぞれ隣接し、周囲の土地とともに一連の牧野を構成する中心部であつて、殖生、地形、飲水からして本件土地を分離しては牧野としての利用度を極度に低下せしめ、平取村の畜産上重大な支障をきたす。
6 小作関係
前所有者訴外八田忠虎は昭和十四年頃訴外平取村牧野組合との間に同訴外組合員の放牧に供するため本件土地につき賃貸借契約を締結し、爾来本件土地は同組合員の馬匹の放牧に供されていたが、同訴外組合は昭和二十三年解散し、あらたにその頃右の組合員らをもつて被告振内農協が設立され、引続き本件土地を馬匹の放牧に供していた。しかるところ昭和二十三年一月頃あらたに原告浜本松枝が右の土地の所有者となつたが、同原告は本件土地が放牧に供されていることを知りながらこれを拒絶しなかつた。したがつて、原告浜本松枝は本件土地を放牧地として被告振内農協に従前どおり貸与することを黙示のうちに承諾したものというべきであるから、同被告による本件土地の使用は正当な権限によるものであつて、小作関係が存在する。
以上のとおり本件土地は牧野として最適の土地であるのみならず、これまで家畜の放牧以外の目的に供されたことのない小作牧野であるからこれを牧野として買収した被告国の処分になんらの違法もない。
五 同二ノ(四)について、原告ら主張の訴外吉田留次郎外二名が被告振内農協の組合員であり、かつ村農地委員会の農地委員であつたこと、および同訴外人らが本件買収および売渡計画の議決に関与したことは、いずれも認めるがその議決の効力についての原告らの主張は争う。農調法第十五条の二十四の規定の趣旨は、農地委員が自己所有の土地につき買収計画を定め、あるいは自己に売渡しを受ける場合のように直接自己に関する事件についてのみその議決に関与できない旨を規定したものであつて、本件のように同訴外人らの土地を買収し、あるいは同訴外人らの売渡すわけでない事件はもはや前記農調法にいう自己に関する事件に該当しない。かりにしからずとしても、本件買収計画および売渡計画を議決した村農地委員会は構成委員十名全員が出席し、全員一致で議決しているのであるから同訴外人ら三名が不適格者だつたとしてもその議決は有効に成立することは明白である。したがつて、村農地委員会の議決が前記農調法に反するとしても本件買収および売渡処分が無効となるいわれはない。
六 同三について、原告ら申立の予備的請求は法定の出訴期間を徒過し、かつ、行政庁を被告として提起されたものではないから不適法である。すなわち、本件買収計画にもとずく買収令書は昭和二十五年三月十五日原告浜本松枝に到達しているのであるから本訴の出訴期間は同日から起算すべきである。しかるに本訴は昭和二十九年六月二十五日提起されたのであるから、すでに法定の出訴期間を徒過している。そのうえ、本訴は抗告訴訟であるから処分行政庁を被告とすべきところ、国を被告としているので此の点からも不適法な訴といわなければならない。
七 同四について、すでに一において述べたように本件土地の買収時期は昭和二十五年三月二日と買収令書に記載されているが、右は誤記であつて買収時期は売渡時期と同日の昭和二十四年七月二日である。このことは公告、縦覧に供された買収計画書によつても明白であるばかりでなく、原告浜本松枝も、昭和二十四年六月二十二日村農地委員会からの通知によりその旨知悉していたのである。されば前記誤記によつて買収時期が昭和二十五年三月二日に変更されたものではないから原告らが主張するように本件土地の売渡が買収に先だつて行われた事実は当然あり得ない。
八 よつて、いずれにしろ本件土地の買収処分は適法な買収計画にもとづくものであるから原告らの本訴請求は失当として棄却さるべきである。
被告振内農協の答弁
一 原告ら主張事実中、被告振内農協がその主張のように本件土地をその地上に生育する立木とともに被告国から売渡しを受け、主張のような登記手続をした事実およびその立木を被告坂口馨に一部譲渡した事実ならびに原告ら主張の訴外吉田留次郎らが被告振内農協の組合員であるとはいずれも認めるがその余の事実は争う。
被告坂口馨の答弁
一 原告ら主張事実中、被告坂口馨が被告振内農協から本件土地上に生育する立木の一部を買受けた事実は認めるがその余の主張事実は争う。
(立証省略)
理由
一 村農地委員会が昭和二十四年六月十八日本件土地につきその所有者を原告浜本松枝として自創法第四十条の二第一項第一号による牧野買収計画を樹立し、同原告はこれに対し、原告ら主張の日時にそれぞれ異議の申立および訴願を提起したが、いずれもその主張の日時に棄却されたこと、被告国は昭和二十五年三月二日を買収時期と記載された買収令書を同年三月十五日付で作成発行して本件土地を買収し、さらにこれを被告振内農協に売渡処分して、原告ら主張のように買収および売渡の各登記手続をしたことは原告らと被告国との間に争いがなく、その余の被告らについては成立に争いない甲第一号証、同第七号証の一、二、同第八号証、乙第一号証の一、二、同第二号証、同第七号証の一、四、同第十六号証の一、二および証人庄野巖(一、二回)、同平村昭二の各証言を総合してこれを認める。(ただし、被告振内農協については本件土地を被告国から売渡しを受けて登記手続をしたことは原告らとの間に争いがない。)
二 よつて、以下原告らの主張の本件買収処分のかしについて考察する。
(一) 原告らは村農地委員会は昭和二十四年六月十八日に定めた買収計画の対価には立木代を算入していないとしてこれを取消し、あらためて昭和二十五年二月頃立木代を含めた買収計画を樹立したにもかかわらずこれについて公告、縦覧および承認の手続をとらなかつたと主張するから、まず右のような買収計画の取消がなされたものであるか否かを検討する。成立に争いない乙第七号証の一、二、四、同第八号証の一、二、四、および証人庄野巖(一回)、同平村昭二の各証言を検討すると、村農地委員会が昭和二十五年二月頃にした第六号議案(乙第八号証の一ないし五)に対する議決は原告らが主張するように第一次買収計画を取消して第二次買収計画を樹立したものではなくて、たんにこれより先昭和二十四年六月十八日に定めた買収計画の対価には本件土地上に生育する立木の対価を算入しなかつたことから、あらためて一石当り金十一円の割合で立木を評価し、これを含めて本件土地の買収対価を全体にわたつて変更決定した、いわゆる買収対価の変更に過ぎないことが明らかである。
ところで原告らはかような計画の一部変更にあつても別異の買収計画として公告、縦覧、承認の手続を経なければならないと主張するので考えるに、自創法によれば買収計画の公告はたんに買収計画を定めた旨を表示すれば足り、べつに対価等その内容を表示すべきものと規定していないのであるから、対価の変更に関し、これを公告しないからといつて買収計画が違法となるべきものではない。しかし、対価は買収目的物とともに買収計画の必要的記載事項であるから、これに変更があつた場合は計画の一部変更としてあらためて変更部分について縦覧および承認の手続をとるべきであつて、これらの手続を欠く買収計画は違法といわなければならない。しかして成立に争いない乙第十四号証の一ないし五によれば、右の計画変更については昭和二十五年三月一日の道農地委員会においてその承認を受けている事実が認められるが、その縦覧については、これを行つたとする証人庄野巖(一回)の証言は後記認定の手続の経過に照らして措信しがたく、他にこれを認めるに証拠はない。かえつて、右の乙号証および成立に争いない乙第十三号証の一、二ならびに被告国の主張によると村農地委員会は対価変更を昭和二十五年二月二十一日に議決して二日後の同月二十三日道農地委員会に承認を申請し、道農地委員会は右の議決後八日に当る昭和二十五年三月一日に承認を与えていることが明白であるが、およそ自創法によれば承認は少なくとも縦覧期間経過後になされることを必要とするのみならずまんいちその期間内に不服申立があつた場合はその一切が解決して始めてこれをなし得るのであつて、その承認申請も縦覧期間内で異議の申立があるか否か未定の間にこれをなすことは通常考えられないから、かような手続の経過を勘案すると、村農地委員会は変更計画についてはこれを縦覧に附さなかつたものと推認せざるを得ない。
してみると、対価変更については縦覧を欠いたものといわざるを得ないが、被告国は、買収計画の縦覧は不服申立の機会を与えるにあるところ、村農地委員会は昭和二十五年三月四日付をもつて原告浜本松枝に買収計画の変更を通知し、不服申立の機会を賦与しているから右の手続上のかしは治癒されたと主張し、右の通知があつたことは成立に争のない乙第十二号証および証人平村昭二、同庄野巖(一回)の証言により認められる。しかしながら、自創法による縦覧手続は、関係人に不服申立の機会を賦与するにある反面、買収計画の樹立から買収令書発行までの一連の法定手続の一環として手続面において買収の要件をなしているものであるから、たんに別途、不服申立の機会を賦与したということによつて、それを欠いたかしが治癒されるものではない。それのみならず、自創法によれば買収計画について異議の申立をなし得るのは買収計画の縦覧期間内であるから、本件のようにすでに道農地委員会の承認を受けた後である昭和二十五年三月四日付で原告浜本松枝に計画変更の通知をしても、これによつて同原告に異議申立の機会を与えたということはできない。されば、被告国のこの点に関する主張は採用の限りでないが、本件の場合のような対価変更につき縦覧手続を欠いたかしが買収計画、ひいてはこれにもとずく買収処分を無効にするか否かは別個の問題である。
しかして、成立に争いない乙第一号証の一、二、同第二号証、同第七号証の一、四、同第八号証の一、四を総合すると、本件対価の変更は従前金一万一千七百五円五十銭であつた本件土地の買収対価に立木代石当り金十一円を加えた金九万八千三百五十円三十銭と被買収者の有利に増額変更したものであり、かつ、変更前の買収計画全体が適法に従覧に供されたことは争いがないところ、原告らはこれに対する異議および訴願において対価の点はなんら不服の理由としていなかつたことが認められるから、かような点を勘案すると、本件対価の変更につき縦覧を欠いたかしは未だ本件買収処分を無効ならしめる重大なかしと考えることはできない。
よつて、原告らのこの点についての主張は採用できない。
(二) 原告らは、本件買収処分は目的物の所有者を誤認してなされたものであるとされたものであるから無効であると主張するところ、原告らと被告国との間には成立に争いなく、被告振内農協、同坂口馨に対しては、公文書であることにより成立を認める甲第十五号証、および証人笹盛文夫の証言ならびに原告ら各本人尋問の結果を綜合すると、本件土地は元訴外八田忠虎の所有であつたところ昭和二十三年一月頃原告斉藤清之助がこれを製炭林として使用するため、同訴外人から立木とも代金十八万円で買受け、以後同人が所有するものであるが、当時同原告は義姉の原告浜本松枝から薪炭製造資金の融通を受けていたところから、その登記名義はとくに同原告名としたものであつて、原告浜本松枝は、本件土地の買受代金はもちろん税金等必要経費は一切これを支出していなく、またその売買交渉に関与したこともない事実が認められ、右の認定を左右するに足る充分な証拠はない。してみると、本件買収計画が定められた昭和二十四年六月十八日当時の本件土地の所有者は原告斉藤清之助であつて、原告浜本松枝はたんに登記簿上の名義人に過ぎないものというべきであるから、同原告を相手として定めた本件買収計画は所有権者の認定を誤つた違法があることはいうまでもない。しかしながら、所育権者の認定を誤つた買収計画といえども村農地委員会が登記名義人が真実の所有者でないことを知らないで、買収計画を樹立したとか、あるいは真の所有者がこれを知りまたは知り得べき状態にあるにかかわらず不服申立をしなかつたときは、その買収計画にもとずく買収処分は取り消し得べきものとなるのは格別、そのため当然無効になるものではないと解されるところ、成立に争いない乙第一号証の一、二、同第二号証、証人平村昭二、同庄野巖(一回)の各証言ならびに原告斉藤清之助本人尋問の結果を総合すると、村農地委員会は買収計画樹立当時の本件土地の所有者は名実ともに原告浜本松枝であつて、原告斉藤清之助はたんに原告浜本松枝の管理人であると了解していたことが認められるうえ、原告斉藤清之助も本件買収計画の樹立に当つては自ら村農地委員会を傍聴してこれを知悉しながら自己の名において不服申立の措置をとらなかつた事実を認めることができる。よつて、以上の事実によれば原告浜本松枝を所有者としてなした本件買収処分は当然無効のものではないから、原告らのこの点に関する主張は採用できない。
(三) ついで本件土地が牧野であるか否かを検討する。成立に争いない甲第一号証、乙第三ないし第六号証、証人木村栄助、同島野嘉平の各証言ならびに鑑定人大原久友の鑑定の結果および検証の結果を総合すると、本件土地は元国有地で大正十二年三月三十一日北海道未開地処分法(明治四十一年法律第五七号)第二条にもとづいて訴外三上重蔵、同伊藤米蔵の両名が国から牧野造成の目的で、その成功期間を十年、昭和十八年まで免税として売渡しを受け、その後所有者も遂次変つたが、本件土地は五百四十五番地の土地の北側に接する平取村村有牧野とならんで同村村民あるいは訴外平取村牧野組合の放牧地として使用され、昭和二十一年十二月十三日にはこれまで登記簿上原野であつたのが牧野と変更された。しかして、本件土地のうち五百四十六番地および五百四十七番地の土地は平担な潅木あるいは草原地帯で立木もほとんどなく、地上一帯に家畜の飼料としてススキ、ヨモギ、クローバー、および少量のミヤコザサが混生し、これらの土地一帯はその地形、樹冠の疏密度および殖生草からして馬匹の主として春から夏の放牧に適している。また、五百四十八番地の土地のうち立木の少ない部分についてもほぼ同様である。五百四十五番地の土地は全体にわたつて立木が密生し、その南西側で五百四十八番地に接する部分および南部を流れるピラチンナイ沢に接する部分はいずれも急峻部を形成し、その一部は馬匹の歩行も不可能な地点もあるが、その余は傾斜も緩く特に中央部には山間の窪地に相当する約二、三十町歩程度の盆地が存在し、かつ本地番一帯には飼料成分の極めて高度なミヤコザサが一面に繁茂し、また前記ピラチンナイ沢は水量豊富で冬季間も凍結しないので家畜の飲水に適し、そのうえ前認定のような地理的条件は地上に生育する立木とあいまつて冬季間馬匹がミヤコザサを堀雪採食するのに適している事実を認めることができ、右の認定を左右するに足る証拠は存在しない。しかしながら、被告振内農協については成立に争いなく、その余の被告らについては弁論の全趣旨によりその成立を認める甲第二号証の一ないし三、証人渡辺正の証言によつて成立を認める甲第三号証の一、二成立に争いない甲第十四号証の一、二、証人原小雪(一回)、同笹盛文夫、同桜田宏、同平村昭二、同木村栄助、同島野嘉平、同大島誠一、同渡辺正、同佐々木芳成の各証言、原告斉藤清之助の本人尋問の結果ならびに鑑定人喜多村弘の鑑定の結果および検証の結果を総合すると本件土地は、少くともその一部は前認定のように牧野としての適性を具備し、かつ多年にわたつて牧野として使用されてきたが、本件買収計画が樹立された昭和二十四年前後は前認定の村有牧野には最低三百頭余の馬匹が放牧されていたにもかかわらず本件土地あるいは近接地において積極的、計画的に放牧されている馬匹はほとんどなく他地に放牧された馬匹がときおり入つていたに過ぎない。それのみならず本件五百四十五番地および五百四十八番地の土地は、無立木地帯である五百四十六番地および五百四十七番地の土地とは異つて、各種樹木が混生し、五百四十五番地の土地には、用材あるいは薪炭材として価値の高いナラ、イタヤ、カエデ、センノキ等を含めて目通平均二寸から四寸程度にわたつて雑木が密生し、その材積は昭和三十一年において町当り平均約二百十六石、総石数約一万八千百四十七石に及び、これを昭和二十四年頃で推定しても町当り約百七十石を有し、また樹冠の疏密度も同年で〇・六以上であつた。一方五百四十八番地はその北側の一部に無立木地帯が存在するが、その余の大部分は目通り一寸から四寸程度にわたつてイタヤ、カエデ、ハンノキ、シラカバ等の有価木の外雑木が混生し、その量は昭和三十一年の測定において町当り約二百六石、総石数にして約千六百六十七石、昭和二十四年で推定してもその材積は町当り約百七十石を上廻り、樹冠の疏密度も〇・六以上であつた。そしてこれら両地番の立木はいずれも過去における粗放な伐採後に自然に萠芽生長した天然林ではあるが、昭和三十一年における立木の材積、材種、林況は北海道一般民有林に比較して、なんら遜色なく、そのままで充分用材林あるいは薪炭林として採算のある経営をなし得る規模を保有し、昭和二十五年には旧森林法にもとずく民有林施業案編成の対象となつており、他面両地番の土地について前所有者の訴外八田忠虎の時代においてすでに民有林として調査されて民有林殖伐計画が定められ、右の計画にもとずいて指導、監督が企画されており、また原告斎藤清之助も本件土地を薪炭林として育成するためこれを買受け、隣地においてその着業を準備していた事実を認めることができ、右認定に反する証人木村栄助、同島野嘉平の各証言の一部および鑑定人大原久友の鑑定の結果は信用しない。しかして、一個の土地の利用関係において営林と放牧とは両立しないものではなく、両者の利害は必ずしも相反するものではない。したがつて、右のようないわゆる混牧林を自創法の適用上牧野とみるか山林とみるかは、その主たる使用目的および樹木の疏密度等の現況に主たる基準を置いて判定しなければならないところ、前記認定の事実によれば、本件土地のうち五百四十六番地および五百四十七番地の両土地については牧野と認められるが、五百四十五番地および五百四十八番地の両土地については昭和二十四年六月当時その主たる使用目的は林木育成にあり、その現況は山林であつたといわなければならない。されば五百四十五番地および五百四十八番地の両地について、これを牧野としてなした本件買収処分はこの点において重大かつ明白なかしがあるものというべきであるから無効であり、原告らの主張は一部理由があるが五百四十六番地および五百四十七番地の土地についての主張はいずれも理由がない。
そこで進んで本件土地の小作関係について案ずるに、証人松永久太郎の証言によつて成立を認める乙第十一号証、証人木村栄助、同島野嘉平、同佐々木芳成、同松永久太郎の各証言を総合すると本件土地の前所有者訴外八田忠虎は昭和十四年頃訴外平取村牧野組合に対し本件土地を含む一帯を同訴外組合の放牧地として、期限の定なく、賃料は年二百六十七円と定めて賃貸した事実を認めることができ右の認定に反する甲第十五号証および証人笹盛文夫の証言は信用しない。しかしながら成立に争いない甲第十二号証によれば同訴外組合は昭和二十三年六月一日解散したことが明白であるから右の賃貸借は特別の事情がない限り同日をもつて終了したものといわざるを得ないところであり、被告振内農協と訴外平取村牧野組合とは別個な組合であるから、たとい同訴外組合が解散し、その組合員の多数をもつて被告振内農協が設立されたとしても、これがためあらたに契約締結の措置をとらずに同訴外組合の本件土地に対する賃借権がそのまま被告振内農協に承継されるものではない。被告国は本件土地についてはその後も被告振内農協において使用しているにもかかわらず、原告らはこれを拒否することなく暗黙のうちにその使用を承認していたから正当な小作関係が存在したと主張するが、前認定のように被告振内農協は本件土地を積極的、計画的に放牧に使用していたものではなく、近隣に放牧された馬匹が本件土地に入つていたものであるから、原告らがこれに対し異議を求べなかつたとしても、暗黙の承諾による小作関係が成立したとは認めがたく、さらに原告ら本人尋問の結果によると本件土地については原告斎藤清之助の所有に帰してからこれを第三者に貸与するような話も出たが、けつきよく同原告はこれを承諾しなかつた事情が窺われるから、同原告としては本件土地を被告振内農協に貸与する意思はなかつたものであり、したがつて被告振内農協が本件土地を使用していたとしても、これは賃借権あるいは使用貸借上の権利にもとずくものではなくして、たんなる事実上のものに過ぎない。そうだとすれば本件土地には小作関係がなかつたものといわざるを得ないから、これを小作牧野としてなした本件買収処分は違法というべきであるが、前示認定のように、本件土地については訴外平取村牧野組合のために昭和二十三年はじめ頃までは小作関係が存在し、その後も被告振内農協の組合員の馬がこれに入つていたことがあるような事情のもとにおいては、小作関係の存否の認定上のかしは取消事由となるは格別未だ本件買収処分を無効とならしめるに足る明白なものということはできない。よつて、この点に関する原告らの主張も採用できない。
(四) 本件買収および売渡計画についての村農地委員会の議決に本件土地の売渡しの相手方である被告振内農協の組合員訴外吉田留次郎、同奥村助市および同斎藤猛らが村農地委員会の委員として関与したことは原告らと被告国および同振内農協との間には争いがなく、被告坂口馨については証人庄野巖の証言によつて成立を認める乙第十七号証、証人原小雪(二回)の証言によつてこれを認める。原告らは右の訴外人らにとつて本件買収および売渡計画は同時に議決されたもので、農調法第十五条の二十四に規定する自己に関する事件に該当するから同訴外人らが関与した本件買収および売渡計画は無効であると主張する。しかしながら当時施行の農調法第十五条の十三(その後の改正による同法第十五条の二十四)にいう自己に関する事件とは自己所有の土地につき買収計画を定める場合あるいは自己に売渡しを受ける場合を指称し、その他当該事件となんらかの利害関係を有する全ての場合を包含せしめる趣旨ではない。したがつて、当該農地委員の所属する団体が独立の法的人格を構成する場合は、たといその農地委員の関与する議決によつてその団体の財産に増加を来たし、かつ、それが反射的にその構成員たる農地委員に利益をもたらす結果となるとしても、もはやかような団体についての事件は当該農地委員にとつて農調法にいう自己の事件にあたらないものというべきである。しかして、被告振内農協は農業協同組合法にもとずいて設立された法人であつて、その所属財産は構成組合員の共有となるものでないことは当裁判所に顕著な事実であるから、同被告に関する事件について、前記訴外人らが農地委員として議決に関与してもなんら農調法の規定に反する違法はなく、原告らのこの点に関する主張も失当である。
三 よつて、つぎに原告らの予備的請求すなわち本件買収処分の取消を求める点につき考察するが、被告国は本案前の抗弁として本件予備的請求は買収令書を原告浜本松枝に交付した昭和二十五年三月十五日から起算してすでに法定の出訴期間を徒過し、かつ処分行政庁を相手としないで国を被告としているから不適法であると主張するところ、原告らは、本訴出訴期間は原告斎藤清之助が買収令書記載の訂正通知を北海道知事から受領した昭和二十九年六月十一日から起算すべきであると争うので、まずこれにつき検討するが、成立に争いない甲第八号証、乙第七号証の一、二、四、同第十号証の二、同第十四号証の五、同第十六号証の一、二および証人平村昭二の証言を総合すると、村農地委員会は本件土地の買収時期を昭和二十四年七月二日と定めて、買収計画を樹立し、その縦覧ならびに道農地委員会の承認を経たにもかかわらず、北海道知事は買収令書に買収時期を昭和二十五年三月二日と記載して本件土地を買収し、その後北海道知事は、昭和二十九年五月三十一日付をもつて、右の買収令書表示の買収時期は昭和二十四年七月二日の誤りである旨原告浜本松枝に訂正の通知をした事実を認めることができる。してみると、北海道知事がなした訂正の通知はたんなる誤記の訂正に過ぎないのみならず、その誤記によつて本件買収処分に対する原告らの認識が害されたものではなく、また、その取消を求める原因がそれによつて発生したものでないことは、いずれも明白であるから、かような場合における抗告訴訟の出訴期間の起算日としての買収処分の日とは、被告国の主張するように買収令書が交付された日というべきである。しかして原告らは本件買収令書は昭和二十五年三月末日頃原告浜本松枝において、これを受領したと自認するから、これよりすでに二ケ月以上を経過して提起されたことが記録上明かな本訴は原告らにとつてすでに出訴期間を徒過した不適法のものといわなければならない。よつて被告国の本案前の抗弁は理由があり、本訴はその余の点について考究するまでもなく、不適法として却下を免かれない。
四 ついで、原告らは本件土地の被告振内農協に対する売渡しは買収処分に先だつて行われたものであり、また、売渡計画の議決は利害関係人の関与のもとになされたから、いずれにしろ無効であると主張するが、これらの点についてはすでに前示三および二ノ(四)において述べたことから明白なように、買収令書に昭和二十五年三月二日と記載された買収時期は昭和二十四年七月二日のたんなる誤記であるから、これによつて売渡時期が買収時期よりも前であるとは認めがたく、また売渡計画の議決についての原告らの主張も、なんら農調法に違反するものではないから原告らのこの点についての主張はとうてい採用することはできない。
五 以上要するに、被告国の本件土地に対する買収処分は、五百四十五番地および五百四十八番地の土地および右地上の立木に関しては山林を牧野と認定してした無効のものといわざるを得ないから、これについての被告振内農協に対する売渡処分も無効であり、かつ、同被告の被告坂口馨に対する立木の売渡(この点については原告らと同被告らとの間に争いがない)も同様、無効である。したがつて、五百四十五番地および五百四十八番地の土地および立木の所有権は前認定のようになお原告斎藤清之助にあるというべきであり、両地番の土地についての被告国の買収による所有権取得および被告振内農協の売渡しによる所有権取得の各登記手続はいずれも原因を欠く無効のものとして抹消されなければならない。
六 よつて原告らの被告国に対する本件買収処分の無効確認を求める請求については、五百四十五番地および五百四十八番地の両土地(立木を含む)についてのみこれを正当として認容すべきであつて、その余については失当として棄却し、また予備的請求については不適法として却下すべく、かつ原告斎藤清之助の被告らに対する本件土地についての所有権確認(立木を含む)およびこれにもとずく被告国および被告振内農協に対する各所有権取得登記の抹消手続を求める請求は、いずれも五百四十五番地および五百四十八番地の土地(所有権確認については立木を含む)についてのみ正当として認容し、その余の土地に対してはいずれも失当として棄却せざるを得なく、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八十九条、第九十二条を適用して、いずれも主文のとおり判決する。
(裁判官 外山四郎 青山惟通 神田正夫)
(別紙目録省略)